| 探偵さんの近くでお仕事できる安心感。そんな、甘いものではなかったのです。
 
 対象者が夜中に動き出し、その先がモーテルだったとき、突然、心地よい眠りから引きずり出されるような携帯の着信音と、“すぐに来い”という探偵さんの声。
 アルバイトとなった瞬間から、優しくない探偵さん。
 依頼者と、部下では、扱いが違って当たり前だろ、と言われ、ちょっとショックを受けてしまった。
 
 とにかく、人使いが荒い!!!
 すぐに辞めたくなりましたが、そこは生活のため。
 水商売と同じだけのバイト料をいただこうと思うと、それなりの苦労はあって当たり前ですよね。
 
 でも、しばらく探偵さんの近くにいると、仕事へ対する真面目さと、妥協しないというプロ意識からきていることが、すぐにわかってきたのです。
 それに、尾行調査に同乗していると、その運転技術や、一瞬の判断に惚れぼれしてしまう。
 そして、またまた格好よく見えてしまったんですねー。
 
 探偵さんに対して、憧れの気持ち以上を持つようになり、忙しい探偵さんのために栄養のあるおつまみを作っていったり、事務所をぴかぴかにしたり。
 
 アルバイトを初めて半年。
 ようやくわたしの気持ちに応えてくれたのでした。
 
 お付き合いを始めたからと言って、仕事には手は抜かないから、怖かったり、冷たかったりするんですけどね。
 そんな状態だから、お休みの日に、仕事モードから完全に離れているときは、めちゃくちゃ優しい人のように感じてしまうのです。
 
 本職を頑張りながら、時々探偵さんのお手伝い。
 普段、食事に出かけると、ほとんど支払いもしてくれるので、一人暮らしを苦だと思わなくなっていました。
 甘えすぎですかねー。
 
 探偵というお仕事を身近でみて、その大変さと、仕事へのプライド、依頼者への気持ち、時々見せる鋭さなんかにも、どんどん気持ちが引き込まれていってたんですねー。
 
 そんなときにはいった、調査。
 そこで同行したのが、ブライダルフェアだったんです。
 探偵さんは、依頼を遂行していただけですが、その疑似体験に、わたし一人が盛り上がってしまったんですねー。
 後で聞くと、そのわたしの自然な態度に、とても仕事がしやすかった、と褒めてもらえました。
 
 なんだか、夢のような仕事のあと、探偵さんは依頼者への報告書を作成するのに忙しそう。
 事務所でおとなしく待ちながら、盛り上がった分、寂しい気持ちになっていました。
 
 ようやくある程度まとまったところで、ご褒美に美味しいものを食べに行こうということになったのです。
 久しぶりに飲む、美味しいお酒。
 デザートが出されたあと、探偵さんが出してきた小さな箱。
 そこには、指輪が入っちゃってたんです。
 「結婚してからも支えてくれる?」
 なんて言葉に、思わずうなずいてしまいました。
 
 朝から気持ちが浮いたり、寂しくなったり、美味しい食事にまた浮きあがり、さらに下りてこられないくらい舞い上がってしまってたんだと思います。
 
 それから越えなければならない、探偵と言う職業への両親の偏見と猛反対。
 そんなことも考えられないくらい。
 だったんですねー。
 |